「自分がバックダンサーだった時を思い出しながら」
この言葉から全ては始まった。「フォーティンブラス」という作品が、自分にとってはある意味集大成になるという事を。
3月1日。フォーティンブラス初日。無事に幕が開いた事に感謝……なんてそんな綺麗事すら言えなかった。私にとっては大変重い内容だった。パッとしない脇役、バックダンサー、でも情熱だけはある。
まるで大光さんそのものの様な。本人もそう仰ってたので頭では理解しつつも実際演じる姿を見ると、昔の大光さんを重ね合わせてしまう自分がいるのが正直なところ。観るのが辛かった。なんで辛いのかさえも分からないまま、それでも紀伊國屋ホールに向かう自分がいた。
当たり前に日々成長し、演技の間、目線や息遣い、感情、、、それは手に取る様に分かる程素晴らしかった。素晴らしい故、昔の大光さんを重ね合わせてしまう自分に嫌気がさした。私は何も成長できてない。大光さんが命削って役を全うしてるのに、私ときたら。作品は大好きなのに、余りにも現実と非現実を理解出来ない自分が、情けなかった。
でもその時はある日突然やってきた。東京公演終盤でしょうか。今日もまた重ね合わす自分。……しかしある台詞が聞こえてきた。「自分が消えるまで役を全うする」。その瞬間、佐々木大光というフィルターが無くなり、フォーティンブラス、そして、羽沢武年だけを見ることができた。まさに佐々木大光が消えた。当たり前に今まで耳にしていた台詞だというのに、なんてこった………今まで私が見てきたものは一体なんだったんだ……と嘆く暇なんてない。自然と羽沢武年を受け入れ、そして、羽沢武年と真っ向勝負をした、そんな感覚であり、台詞ひとつひとつが響くのである。最初は面白おかしく和春の言う通り、フォーティンブラスを演じていた羽沢だが、次第に自分の役はそうじゃない、和春の人生の舞台の主役は和春自身。そして実の息子である和馬。そして長い時間共に過ごした玉代。2人がいてこその和春の人生。自分はそこにいる人間では無い。まさに脇役に徹した。それでもフォーティンブラスの人生を全うする羽沢。時に厳しい言葉を投げかけ声を荒らげるが、そこには確かな信念がある。あら……どっかの誰かさんみたいだな。そして、フォーティンブラス・羽沢武年だけではなく、演者さん全員の台詞がグサグサ刺さってきたのだ。あぁそれはもう剣山を埋められた柱に頭突きするに等しい衝撃。ある意味それは「演劇の神様」がにっこりと微笑んでくれた気さえした。そして私のくだらない感情は消え去った。
そして、フォーティンブラス・羽沢武年だけではなく、ハムレット、オフィーリア、オズリック、そしてフォーティンブラスの父和春、そして玉代……全ての演者さんが主役になった。全員が主役。ここに辿り着くまでに随分と時間がかかってしまったようだ。申し訳ない気もちでいっぱいだ。やっとの思いでたどり着いたこの新しい気持ち、まさに今日が初日か、と、そんな感情さえ抱いた。もがき苦しみ、悩んで狂って死にてぇなぁ、なんて大袈裟かもしれないが、でもそのくらいの葛藤があったのは間違いない。でもそんな自分も受け入れよう。新たな道筋が見えた瞬間、過去の自分を受け入れることができた。どんな回り道をしても、失敗をしても、それで良いんだ。それで良かったんだ。まさに自分の人生を全う。人生の主役は誰でもない、自分自身。それでいいんだ。
「フォーティンブラス」が、そして大光さんが、大切な事を教えてくれたようだ。
無事に東京公演、そして神戸公演を成功させ、幕を閉じたのであった。
「佐々木大光、大義であった!!!!」
私は大光さんにこんな言葉を投げかけたい。見事に役を全うし、カーテンコールでなんとも清々しく溢れんばかりの笑みを浮かべるのは紛れもない、佐々木大光だった。フォーティンブラスでも、羽沢武年でもない、佐々木大光だった。
「努力する姿をみせたくない」と言っていたが、相当努力を重ねてきたに違いない。こうして努力を重ね、自信へとなり、そして次に繋げる。思い返せば、いつだってそうだったなとまた、感慨深くなるわけで。どんな経験をも糧にして、次に繋げる。無論、バックダンサーだった時代をも。あの日、あの時があったから、今に繋がってるんだよ、と。長い時間をかけて、そして、大光さんがアイドル人生をかけて、教えてくれた事。
さぁ、見事ゴールした大光さんは、きっと既に次のスタート地点に立っているのであろう。雄々しく胸を張り、勇ましい姿で、立っているのであろう。
そしてきっとこう言うに違いない。
「ここから始めるんだ。
未来を夢見て、
大きく羽ばたくんだ。」
大きく光り、
大きく羽ばたけ、
佐々木大光。
舞台「フォーティンブラス」に出会えた事に感謝。
そして、フォーティンブラスが自分自身の集大成となったのである。自分の人生の主役は、誰でもない、自分自身。そう、人生を全うする。ある決意を。時をみて、またの機会に。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。